Masuk第89話 うっかりビデオ通話
美月がベッドサイドテーブルの上のスマホを取ろうとしたとき、不意に通話ボタンを押してしまい、ビデオ通話の画面が飛び出してきた。
画面いっぱいに広がったイケメンの顔を見て、彼女はようやく、相手がビデオ通話をかけてきたのだと気づいた。
画面の中の蓮は、魂を奪うような笑みを浮かべていた。
「こんなに早く出てくれたってことは、よっぽど俺に会いたかったのか?それともずっと俺の着信を待ってたのか?」
「……」美月は言葉を失った。
何を言ってるんだ、こいつ。誰が彼の電話を待ってたっていうんだ?
彼女は無表情で返した。
「自信はいいけど、過剰は病気だよ」
「お前は照れ屋
第288話 何か精神的な問題でもあるのか?優香は当然、さらに罵声を浴びせようとした。もはや、なりふり構っていられない状態だった。だが今度は、悠真がそれを許さなかった。彼は優香に手刀を一発食らわせた。優香はその場で気を失った。客室乗務員は驚きに目を見開いた。悠真はすぐに言った。「大丈夫です。少し眠れば落ち着くでしょう。先ほどは本当に失礼しました」さすがに、妹に何か病気があるとは言えなかった。客室乗務員は言葉を失った。……本当に大丈夫なのだろうか。とはいえ、内心では少しだけ胸がすく思いもしていた。客室乗務員たちだって、腹が立たないわけではない。ただ、仕事柄、表に出さずにいるだけだ。「かしこまりました。何かございましたら、呼び出しボタンでお知らせくださいませ」悠真はうなずいた。「分かりました」客室乗務員は軽く会釈すると、その場を離れていった。悠真は少し離れた席にいる美月に目を向けた。「妹がご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません……」だが、美月は彼が言い終わる前に口を開いた。「妹さんに精神疾患、それも躁病のようなものがあるのなら……ご家族がきちんと見ていてください。野放しにして、外で人に吠えたり噛みついたりさせないことです。ああいう振る舞いは、あまりにも迷惑です
第287話 ファーストクラスで騒ぐなんて!ちょうどそのとき、美月も目を開けた。実のところ、彼女は最初から眠ってなどいなかったのだ。目を開けたタイミングで、ちょうど客室乗務員がそばを通りかかった。「お客様、お食事をお持ちいたしましょうか?」美月は少しお腹が空いていたので、すぐに答えた。「お願いします」「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」客室乗務員はほかの乗客にも声をかけて回った。一人がまだ眠っていたものの、それ以外の乗客は皆、食事を希望した。ほどなくして客室乗務員が戻り、順番に機内食を配り始めた。美月は目の前に並べられた料理を見た。品数も多く、なかなか豪華な食事だった。一口食べてみると、家の料理人が作る料理には及ばないものの、決して悪くはなかった。美月がおいしそうに食べているのを見て、優香は思わず鼻で笑った。「ふん、やっぱり結婚相手次第で人生って変わるものね。昔のあんたなら、ファーストクラスに乗る機会なんてなかったでしょう?」悠真は、午前中はようやく静かに過ごせていたというのに、また妹が余計なことを言い出したのを見て、思わずたしなめた。「優香、黙れ!」だが、今度ばかりは優香も兄の言うことを聞かず、真っ向から言い返した。「私は何も間違ったことなんて言ってないわ! 自分の意見を言う自由もないっていうの?」「これ以上騒ぐなら、あとでカードを
第286話 うちの娘を見下してるってわけ?とはいえ、胸の内に溜まった不満を吐き出してしまえば、気分がすっきりするのも確かだった。雨子も、昨日から抱えていた鬱憤をようやく晴らすことができた。二人はすっかり落ち着きを取り戻していた。「そういえば、兄さんと茜の件だけど……まだ会わせるつもりなの?」雨子は冷笑した。「もちろんよ。あとで志織に電話して、明日会う約束を取りつけるわ」「兄さんがそんな話、素直に聞くと思う?」詩には、兄が大人しく母の言うことに従うとは思えなかった。ところが、雨子は自信たっぷりに答えた。「承諾するわよ」詩は言葉を失った。……本当?あの兄が茜とお見合いするなんて、どうしても想像がつかない。詩は慎重に尋ねた。「どうして承諾するの?」雨子は得意げに笑った。「結婚する気がないなら、決まるまで毎週十回お見合いをさせるって言ってやったのよ」「それに、結婚すれば美月にはもうちょっかいを出さないし、これからあの女に会っても、にこやかに接すると約束してくれたわ」詩は目を丸くした。……なるほど、そういうことだったのか。「じゃあ、これから本当に美月に愛想よくするつもりなの?」
第285話 腹の虫が収まらない一方、桐生詩が帰宅したのは、翌日の昼だった。ここ数日、彼女は友人たちと一緒に海へ出かけ、遊び回っていたのだ。リビングのソファに座っている雨子の姿を見つけると、詩は思わず声を上げた。「ただいま!」だが、娘が帰ってきたというのに、雨子はさほど嬉しそうでもなかった。ちらりと一瞥しただけで、そっけなく答えた。「おかえり」詩は、雨子が不機嫌なのをすぐに察した。「どうしたの? 誰かにそんなに腹を立ててるの?」雨子はひどく不機嫌だった。何しろ、昨日の出来事で腹が立ったまま、まだ腹の虫が収まっていなかったのだ。「何でもないわ」それ以上、話すつもりはないという態度だった。詩はそんな雨子の隣に腰を下ろした。――今、帰ってきたばかりなのだから、母さんを怒らせるようなことをしたはずがない。母さんが一番かわいがっているのは兄さんだ。兄さんに腹を立てるなんて、まずありえない。となると……詩は目をくるりと動かし、探るように尋ねた。「昨日、気に入らなかったの?」――兄さんが三枝茜とお見合いする話は、母さんから聞いていた。昨日は自分が家にいなかったから、母さんに付き添えなかった。もしかして、会ってみたら何か気に入らないことでもあったのだろうか……
第284話 よりによって、こんなところで正直、美月はこれまで、こんなふうに大切に見送られたことなどなかった。家族全員がそろって空港まで見送りに来てくれるなんて。父が亡くなって以来、彼女は実の母にさえ疎まれ続けてきた。学費すら出してもらえなかったのだから、母親らしい気遣いや愛情を注いでもらえるはずもなかった。雅は相変わらず、あれこれと念を押していた。「着いたらすぐに電話するのよ。それから、もし蓮のやつが迎えに来るのに遅れたりしたら、それもちゃんと電話してちょうだい。あとで母さんがきつく叱ってやるから」清子も心配そうに、何度も繰り返し言い聞かせた。美月の胸は、じんわりと温かくなった。「分かりました。飛行機を降りたら、すぐに電源を入れて電話しますね。それに、ファーストクラスですから、少し眠っていれば、目が覚める頃には着いていると思います」頃合いを見計らい、源一郎が口を開いた。「さあ、そろそろ保安検査が始まる時間だ。もう美月を行かせてやりなさい」二人とも名残惜しくて仕方がなかったが、さすがに搭乗に遅れるわけにはいかない。「美月ちゃん、じゃあ、行ってらっしゃい」美月はうなずいた。「はい。皆さんも、もう帰ってくださいね」雅は少しでも長く美月と一緒にいたいようだった。「急がなくても大丈夫よ。保安検査場に入るまで、私たちはここで見送っているから」美月はそれ以上何も言わず、三人に手を振って別れを告げると、保安検査場へと向かった…&
第283話 自家用ジェットで送らせましょう蓮は、今日は本当にいいこと続きだと思っていた。――まず、美月が自分のところへ来てくれること。そしてもう一つは、瑛士がまたお見合いをすることだ。どちらも、この上なく喜ばしいことだ。「あいつらのことは本人たちに任せておけばいい。俺たちが口を出すことじゃない。そうだ、明日はそんなにたくさん荷物を持ってこなくていいぞ。こっちに来てから買えばいい。何でも揃うからな。荷物は少ないほうが楽だろ? 必要なものは全部、俺が用意しておくよ」――買えば済む話だ。できることなら、世界中のいいものを全部、彼女の目の前に並べてやりたい。ビデオ通話を終えると、蓮はさっそくデパートへ買い物に出かけた。美月はもともと、荷物をたくさん持っていくつもりはなかった。――お金に困っているわけでもないし、足りないものがあれば、向こうで買えばいい。「そういえば、いつ帰ってくる予定なの? こっちの予定も立てたいから」「半月くらいはどうだ? そうすれば、何日か多く遊べるだろ」蓮はすでに、どこへ遊びに行こうかと計画を立て始めていた。美月は少し考えてから答えた。「半月は長すぎるわ。十日にしましょう」――十日じゃ短すぎるだろ。だが、今ここで彼女に逆らうわけにもいかない。せっかく来てくれる気になったのに、また行きたくないと言い出されたら困る。どうせ、こっちに来てからでも説得する機会はある。まずは何と